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ナパのブドウ栽培とブドウ本来の力を引き出す醸造技術

ブドウ栽培

ブドウ本来の力を引き出すワイン造りに重要なこと。それは以下の2点です。

  • 良質なブドウを作り出すブドウ栽培
  • 最良のブドウを世界クラスのワインにする醸造

「ワイン造りはブドウ畑から始まる」という言葉があります。ワインの銘醸地では必ずといっていいほど耳にする言葉です。 素晴らしいワインを生み出すには、質の高いブドウ果実は欠かせません。 そして良質なブドウの力を活かす醸造技術なくしてもまた、逸品と呼ばれるワインは生まれません。

ナパの醸造家は「手をかけすぎないこと」をモットーに、ブドウ本来の力を引き出すことを目指したワイン造りを心掛けています。その為にも、「良質なブドウ」を作りだすブドウ栽培と、そのブドウを「世界クラスのワイン」へ変える醸造が重要となります。栽培と醸造の造り手により、ナパはワインの銘醸地として知られ、味わいと品質の高さで多くの愛飲家を魅了しています。

では、ナパではどのように栽培や醸造が行われているのでしょうか?

ナパのブドウ栽培と醸造の特筆すべき点

テクノロジーの活用

ナパではブドウ栽培と醸造の改善を図るために、最先端のテクノロジーを活用しています。ナパがワイン造りにテクノロジーを取り入れたきっかけは、フィロキセラという害虫被害があったといわれています。

フィロキセラはブドウの樹液を吸い、ブドウの樹を枯らす害虫ですが、ナパは1890年代、1980年~1990年初めにかけてと、2度にわたってその被害を受け、ブドウ畑は一時壊滅状態となりました。ナパのワイナリーは大きな痛手を受けましたが、クローンの最新技術を使って植え替えを行い危機を乗り越えました。

フィロキセラ

[フィロキセラの被害を受けたブドウの樹を植替える生産者]
提供:Napa Valley Vintners

以降、ナパでは品質向上のために積極的にテクノロジーを活用しています。それでは他にどのような技術がブドウ栽培と醸造に活用されているのでしょうか?

ブドウ栽培

1. 畑に適したクローンと台木の使用

フィロキセラの被害では、ブドウの樹をフィロキセラに強いクローンや台木へと植え替えましたが、今ではこのクローン技術で土壌の特徴を活かした品質の高い果実を実らせるブドウの樹を作っています。

ブドウの栽培は、特定の品種を挿し木や取り木で増殖させたクローンを使ったり、根となる品種に枝となる品種をつなぐ接木という方法で作った台木を用いて行われます。
クローンはオリジナルと同じ特性を有するため、同じ品種の中でもより栽培しやすい樹や良質の実をつける樹を増やすことができます。また台木は根の成長が芳しく土壌への適応性も高いので、品質向上が望めます。

フィロキセラ

[台木への植え替え]

例えば干ばつに強い台木やクローンを水の乏しいヒルサイドの畑に使用し、水分が豊富な土地に向くものを谷間にある畑に使うといった具合に、それぞれのエリアや畑で適したものを使い分ける工夫をしています。

2. NASA技術によるブドウ育成監視

ナパのテクノロジー活用は、米航空宇宙局(NASA)の技術にも及んでいます。
NASAと提携し、ブドウ畑の監視プロジェクトを推し進めているワイナリーでは、人工衛星や軽飛行機が撮影した航空写真と地理情報システムを使ってブドウ畑の地図を作成し、ブドウの樹の状態を監視しています。

葉や幹の勢いといった細かいブドウの生育状況に至るまで、つぶさに管理することでブドウの品質向上に役立てています。

3. ブドウの樹液量をリアルタイムでモニタリング

科学技術はブドウの樹で起こっていることもリアルタイムで教えてくれます。

ナパではフルーション・サイエンシズ社の樹液センサーを採用しているワイナリーもあります。これは樹液流センサーをブドウの木に巻き付け、15分ごとにブドウの木の蒸散量を測定するシステムで、記録されたデータは随時フルーション・サイエンシズ社のサーバーへと送信されています。送られたデータはアルゴリズムの解析によりリアルタイムで植物の水不足指数に数値化され、栽培農家に提供されるしくみになっています。

測定された水不足指数はブドウの樹に必要な水やりのタイミングと量を図る目安となり、効率的に水を管理する上でとても役立っています。

除梗機

[フルーション・サイエンシズ社による樹液量センサー]
@Fruition Siences

4 .栽培計画に役立つ測候所データ

ブドウ畑には測候所があり、それぞれの畑の状況を区画ごとに監視しています。カリフォルニアのような乾燥地帯ではブドウ栽培に灌漑が欠かせません。

栽培家は測候所で得られたデータを基に灌漑の時期や場所を判断し、ブドウの栽培計画に反映しています。

醸造

1. 最新の技術が備わった最高機材の導入

良質のブドウを世界クラスのワインに仕上げるのは醸造家の仕事。そのためにナパのワイナリーは、プレス、圧搾機、除梗機、ポンプ、タンクといった最高の機材や技術を積極的に導入しています。

例えば、より正確に質の良いブドウのみをレーザーで選別できる光学選別機を取り入れるワインの造り手も増えています。また破砕機に除梗機が設置され作業のスピードが上がったことで、収穫のタイミングを迎えた果実を迅速に、より多く加工することができるようになりました。

除梗機

[光学式の自動選果機など、最新技術を積極的に取り入れる]
提供:Napa Valley Vintners

繊細な手作業

様々なハイテク技術を取り入れる一方で、人の手による細やかな作業も重んじているのは、ワイン銘醸地ナパの特筆すべき点ではないでしょうか?

多くのナパのワイナリーは「最終的にはワインの出来栄えは人の手にかかっている」と考えています。

ブドウ栽培や醸造で多くのテクノロジーや最新機材を活用しつつ、繊細なブドウの樹の手入れや、数値やデータだけでなく人の五感も加えた品質管理など多くの工程が手作業で行われています。

ブドウ栽培

1. ライフサイクルに応じた木の手入れ

ナパの畑では栽培期間中、剪定や葉摘み、摘果など1本のブドウの木に10回以上人の手が入る事も少なくありません。果実の生産量を確保し、実をしっかりと熟させるには、栽培期に適切な手入れを行う必要があるからです。

開花時期に霜の被害に遭う危険がある場合には、ブドウ栽培者は大きなファンを回して冷たい空気を循環させたり、散水してブドウの樹を氷の保護膜で覆ったり、ヒーターを使用してブドウ畑の気温を上げたりと、若くて弱い枝を凍霜害から守るためのさまざまな対策を講じます。

小さな実がつき始める時期には、「グリーン・ハーベスティング(青い実の収穫)」とも呼ばれる摘房を行い、不完全な房や均一に成長しそうにない房を取り除きます。

また、近年の夏は温暖化による気温上昇と強い日差しへの予防策も迫られるようになりました。葉の部分を管理することをキャノピーマネージメントと呼びますが、日差しが当たらないように葉のボリュームを調整しています。

収穫はほとんどが手摘みで行なわれます。ワイナリーによっては、果実の糖度を抑え、収穫後の酸化防ぎつつフレッシュ感を持たせるために夜間から早朝に収穫作業することも珍しくありません。

キャノピーマネージメント

[キャノピーマネージメントにより強い日差しから守る]
@S.R.トネラ

手摘み

[夜の手摘み作業]
提供:Napa Valley Vintners

醸造

1. 品質管理

発酵期間中の毎日のテストと試飲

ブドウ栽培でも人の手で行われる繊細な作業が大切であるように、ワインの醸造にも人が手間を掛けなくてはならないことや、知識や経験をもとに五感を働かせなくてはできない作業があります。

ナパのワイナリーではブドウ畑の区画ごとに小ロットで発酵を行います。栽培の段階で培われてきた細部への配慮を引き継ぐためです。また、発酵期間中は研究室で毎日ワインのテストがされ、すべてのロットの試飲も実施されています。発酵の確認を鼻で行っているワイナリーもあります。

このように数値やデータの毎日の観察や、舌や鼻を使っての確認など醸造家の知識や経験に基づく徹底した品質管理によりナパでは高品質なワインを生み出すことができるのです。

タンクの中で発酵中の果実

[タンクの中で発酵中の果実]

試飲のための抽出

[試飲のための抽出]

ラボでの試飲風景

[ラボでの試飲風景]
©Hayashi Wines

テクノロジーと手作業の融合がナパらしさ

ナパのワイン造りの面白さは、ハイテクノロジーと繊細な手作業が共生しているところではないでしょうか。

ナパワインの造り手たちは、高品質なワインに重要なブドウの栽培と醸造の技術革新の為に積極的に資金を投入し、人の手が必要な部分には膨大な労力をかけます。
すべては栽培により「良質なブドウ」を作り、醸造によりその果実を「世界クラスのワイン」へと変え、高品質な素晴らしいワインを造りたいという信条が根底にあるからです。

革新と伝統が融合したナパのワイン造りによって、この先もナパにしかできない素晴らしいワインが生み出されていくでしょう。

編集後記

~ 気候変動とワイナリーの取り組み ~

近年カリフォルニアでは夏になると毎年山火事が発生しています。2020年の山火事の規模は非常に大きく、多くのワイナリーが畑だけでなくワイナリーの建物も火に飲み込まれ、その年のヴィンテージワインの生産ができないという甚大な被害をうけたのは記憶にあたらしいところです。

山火事から分かるように、昨今の気候変動による気温上昇はナパのワイン造りにとっても大きな問題となっています。通常ワインに使用するブドウは、実が小さく凝縮された果実が好ましく、その為には適度な冷気が必要となります。気温が高くなることで「良質なブドウ」作りが難しくなってしまいます。

その一例として、ロバート・シンスキー・ワイナリーの「2014 ラストチャンス」というピノ・ノワールのワインを紹介します。ステラでも取り扱いをしていたワインで(現在は在庫切れとなっています)、ピノ・ノワールに情熱を注いでいるワイナリーからリリースされました。

ピノ・ノワールは、皮が薄いため暑すぎるとブドウの熟成が早まってしまい、この品種の良さを失ってしまいます。また、ピノ・ノワールの素晴らしい味わいを引き出すために単一で醸造することが基本で、果実のクオリティがより重要となってきます。

タンクの中で発酵中の果実

[ロバート・シンスキー・ヴィンヤーズ のラストチャンス]

この「2014 ラストチャンス」で使用している果実は、シンスキーの自社畑ケープ・ヴィンヤードの丘陵の区画で栽培されたものです。近年のカリフォルニア全体の温暖化によりこの区画も気温が上がっていった結果、ワイナリーが考える品質をキープできなくなったため、2014ビンテージを最後にこの区画での栽培を終えることとなりました。

フィロキセラの危機を乗り越えたように、ナパではこうした環境の変化にも対応できるよう様々な実験に取り組んでいます。

カリフォルニア大学デイビス校においては、1900年代から実験畑を持ち、高温の環境下でも栽培できる品種の研究が先駆者的に行われてきました。現在、大きなワイナリーでは各々で実験畑を所有し、ナパワインの品質向上に向けて努力しています。

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